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相続問題で揉める代表的なこと

相続問題で揉めやすい代表的な6つの事柄|遺産分割・不動産・遺留分・生前贈与まで

はじめに:相続トラブルは「財産が多い家」だけの問題ではない

相続問題というと、「大きな資産を持っている家庭だけが揉めるもの」と思われがちです。しかし実際には、財産額の大小にかかわらず、相続人同士の感情、過去の援助、介護の負担、不動産の扱い、遺言書の内容などが重なり、話し合いが長期化することがあります。

裁判所が公表している令和7年司法統計年報・家事編では、令和7年中の家庭裁判所における遺産分割事件の総数は16,431件とされています。また、同統計では、遺産分割事件の中に審理期間が3年を超えるものも含まれており、相続問題が一度こじれると解決まで長期化する可能性があることが分かります。(courts.go.jp)

相続人間で遺産分割の話し合いがつかない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停または審判を利用できます。裁判所の説明によれば、調停では当事者双方から事情を聴き、必要に応じて資料提出や鑑定を行いながら合意を目指し、調停が不成立となった場合には審判手続へ移行します。(courts.go.jp)

以下では、相続問題で揉めやすい代表的な事柄を6つに分けて解説します。


1. 不動産を誰が相続するかで揉める

相続トラブルの中でも特に多いのが、実家や土地などの不動産をめぐる対立です。預貯金であれば金額に応じて分けやすい一方、不動産は物理的に簡単に分けることができません。そのため、「長男が実家に住み続けたい」「他の相続人は売却して現金で分けたい」「不動産評価額に納得できない」といった意見の対立が起こりやすくなります。

なぜ不動産相続は揉めやすいのか

不動産が相続財産の大部分を占めている場合、特定の相続人が不動産を取得すると、他の相続人との公平をどのように確保するかが問題になります。たとえば、実家の評価額が4,000万円で、預貯金が500万円しかない場合、実家を取得する相続人と、それ以外の相続人との間で取得額に大きな差が出る可能性があります。

このような場合には、不動産を取得する相続人が他の相続人に代償金を支払う「代償分割」や、不動産を売却して現金で分ける「換価分割」が検討されます。一方で、相続人全員で共有名義にする方法もありますが、共有状態が長引くと、売却・建替え・管理の場面で合意形成が難しくなり、次世代の相続で共有者がさらに増えるおそれがあります。

共有物の管理や変更については、民法上のルールがあり、法務省資料でも、共有物の管理に関する事項は原則として持分価格の過半数で決すること、民法251条の場合を除くことなどが示されています。相続をきっかけに共有者が増えると、法律上の意思決定ルール以前に、実務上の連絡調整や合意形成そのものが難しくなる点に注意が必要です。(moj.go.jp)

予防策

不動産相続で揉めないためには、まず登記事項証明書、固定資産税評価証明書、路線価、実勢価格などを確認し、不動産の評価について相続人間で共通認識を持つことが重要です。また、「誰かが住み続けるのか」「売却するのか」「代償金を準備できるのか」を早い段階で整理しておく必要があります。

さらに、令和6年4月1日から相続登記が義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。正当な理由なく申請しない場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。(moj.go.jp)


2. 生前贈与や援助の有無で揉める

次に揉めやすいのが、生前贈与や過去の援助をめぐる問題です。たとえば、「兄は住宅購入資金を出してもらっていた」「妹だけ大学院費用や留学費用を親に負担してもらった」「長男は事業資金を援助されていた」など、過去の金銭的援助が相続時に蒸し返されることがあります。

特別受益とは何か

民法では、共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けた人や、婚姻・養子縁組・生計の資本として贈与を受けた人がいる場合、その利益を相続分の計算に反映させる「特別受益」の制度があります。これは、特定の相続人が生前に財産の前渡しを受けていた場合に、相続人間の公平を図るための制度です。(laws.e-gov.go.jp)

実際、令和7年司法統計年報では、遺産分割事件のうち認容・調停成立した事件について、「民法903条所定の特別受益者がいて、遺産分割に当たりその特別受益分が考慮された事件」を集計しています。同年の統計では、特別受益分が考慮された事件が一定数存在しており、裁判所実務上も争点になり得ることが分かります。(courts.go.jp)

何が問題になるのか

特別受益で揉める典型例は、「それは単なる親の好意だったのか」「生活費の援助だったのか」「相続分の前渡しと評価すべきなのか」という点です。特に、贈与から長い時間が経っている場合、通帳、振込記録、贈与契約書、親族間のやり取りが残っていないことも多く、事実認定が難しくなります。

また、親が「この子には多く援助したが、相続では平等にしたい」と考えていたのか、あるいは「すでに援助した分を差し引いてほしい」と考えていたのかによって、相続人の受け止め方も変わります。親の意思が文書で残っていない場合、相続人同士の感情的な対立に発展しやすくなります。

予防策

生前贈与を行う場合は、贈与契約書、振込記録、贈与税申告の有無などを整理しておくことが重要です。また、特定の相続人に多く援助した場合には、遺言書や付言事項でその理由や相続時の考え方を明確にしておくと、後の誤解を減らせます。


3. 介護や同居の負担をめぐって揉める

相続問題では、「誰が親の面倒を見てきたのか」という点も大きな争点になります。長年同居して介護をしてきた相続人が「自分は親の生活を支えてきたのだから多く相続したい」と主張する一方で、他の相続人が「介護をしていたことは分かるが、財産を多く取得するほどではない」と反発するケースです。

寄与分とは何か

共同相続人の中に、被相続人の事業に関する労務提供、財産上の給付、療養看護その他の方法により、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした人がいる場合、民法上の「寄与分」が問題になります。寄与分は、単に「親孝行をした」「同居していた」というだけで当然に認められるものではなく、財産の維持または増加に特別な貢献があったかが問題になります。(laws.e-gov.go.jp)

令和7年司法統計年報では、遺産分割事件のうち認容・調停成立で寄与分の定めがあった事件についても集計されています。同年の統計では、寄与分の定めがあった事件は119件とされ、寄与者の内訳として子、配偶者、その他が示されています。(courts.go.jp)

相続人ではない親族の介護はどうなるか

近年特に注意したいのが、相続人ではない親族による介護です。たとえば、長男の妻が義父母を長年介護していた場合、長男の妻は原則として相続人ではありません。しかし、一定の要件を満たす場合には「特別寄与料」の請求が問題になります。

裁判所は、特別の寄与に関する処分調停について、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務提供をしたことにより、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした親族が申立人になり得ると説明しています。ただし、申立ては、特別寄与者が相続開始および相続人を知った時から6か月を経過したとき、または相続開始の時から1年を経過したときはできないとされています。(courts.go.jp)

予防策

介護や同居の負担を相続に反映させたい場合、介護記録、医療・介護費用の支払記録、通院付き添いの記録、介護サービス利用状況などを残しておくことが大切です。また、被相続人自身が感謝や財産承継の意思を明確にしたい場合には、遺言書の作成を検討すべきです。


4. 遺言書の内容や遺留分で揉める

遺言書があるからといって、必ずしも相続トラブルが防げるわけではありません。むしろ、遺言書の内容が一部の相続人に大きく偏っている場合、「なぜ自分の取り分が少ないのか」「遺言書は本当に本人の意思で作られたのか」「認知症の影響はなかったのか」といった争いが起こることがあります。

遺留分とは何か

遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された最低限の取り分です。民法1042条では、兄弟姉妹以外の相続人に遺留分が認められ、直系尊属のみが相続人である場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1という割合が定められています。(laws.e-gov.go.jp)

たとえば、「全財産を長男に相続させる」という遺言があった場合でも、他の子どもが遺留分を持つ場合には、遺留分侵害額請求が問題になります。現在の制度では、遺留分を侵害された人は、原則として金銭の支払いを請求する形になります。

裁判所は、遺留分侵害額請求について、調停を申し立てただけでは相手方に対する意思表示にはならないため、調停申立てとは別に内容証明郵便等で意思表示を行う必要があると説明しています。また、遺留分侵害額請求権は、相続開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈を知った時から1年、または相続開始時から10年で消滅するとされています。(courts.go.jp)

遺言書の有効性も争点になる

遺言書については、「形式が整っているか」「本人が自分の意思で作成したか」「作成当時に判断能力があったか」も重要です。自筆証書遺言の場合、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用すると、相続開始後の家庭裁判所での検認が不要になります。ただし、法務省は、この制度が保管された遺言書の有効性を保証するものではないとも案内しています。(moj.go.jp)

予防策

遺言書を作成する際は、単に財産の分け方を書くのではなく、なぜそのような分け方にしたのかを丁寧に残すことが重要です。特定の相続人に多く相続させる場合は、遺留分への配慮も必要です。内容が複雑な場合や、将来争いが予想される場合には、公正証書遺言や専門家の関与を検討するとよいでしょう。


5. 預貯金の使い込みや財産隠しで揉める

相続開始後、相続人の一人が通帳や印鑑を管理していた場合、「親の預金がいつの間にか減っている」「生前に多額の引き出しがある」「どこに財産があるのか教えてもらえない」といった疑念が生じることがあります。財産の全体像が見えない状態では、遺産分割協議を公平に進めることができません。

使い込みが疑われる典型例

預貯金の使い込みでよく問題になるのは、被相続人の生前または死亡直前に、多額の現金引き出しがあるケースです。介護費、医療費、生活費として使われたのであれば正当な支出といえますが、使途が不明な場合、他の相続人から「自分のために使ったのではないか」と疑われます。

一方で、介護を担っていた相続人からすれば、「親のために必要な支出だった」「現金払いが多かっただけ」と考えている場合もあります。つまり、問題の本質は、引き出しそのものではなく、使途を説明できる資料があるかどうかです。

遺産分割前の預貯金払戻し制度

相続預金については、遺産分割前であっても、一定の範囲で払戻しを受けられる制度があります。全国銀行協会の資料では、遺産分割が終了するまで相続人単独では相続預金の払戻しを受けられないことがある一方、生活費や葬儀費用の支払いなどのために、一定額について金融機関窓口で払戻しを受けられる制度が案内されています。(zenginkyo.or.jp)

また、預金相続手続きでは、遺産分割協議書がある場合、法定相続人全員の署名・押印がある遺産分割協議書、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍、相続人全員の戸籍謄本、相続人全員の印鑑証明書などが必要になることがあります。金融機関手続きは証拠書類に基づいて進むため、財産資料の整理が非常に重要です。(zenginkyo.or.jp)

予防策

預貯金の使い込みを疑われないためには、親の財産管理をしている人が、支出の内容を記録し、領収書や請求書を保管しておくことが大切です。相続開始後は、相続人全員に対して財産目録、残高証明書、通帳履歴、不動産資料、保険資料などを開示し、情報格差を作らないことが揉め事の予防になります。


6. 借金・税金・期限管理で揉める

相続では、プラスの財産だけでなく、借金や未払金、保証債務、税金も問題になります。相続人の中に「とにかく早く遺産分割したい」という人がいる一方で、別の相続人が「借金があるかもしれないから慎重に調べたい」と考えることもあります。この温度差がトラブルにつながります。

相続放棄の期限

借金が多い場合や財産状況が不明な場合には、相続放棄を検討することがあります。裁判所は、相続放棄の申述について、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にしなければならないと案内しています。申述先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。(courts.go.jp)

この3か月の期間を過ぎると、原則として相続を承認したものとして扱われるリスクがあります。そのため、借金の有無が不明な場合には、預貯金、借入金、カードローン、保証債務、税金、医療費、施設費などを早急に確認する必要があります。

相続税の申告期限

相続税についても期限管理が重要です。国税庁は、相続税の申告について、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があると案内しています。期限までに申告しなかった場合や、実際に取得した財産額より少なく申告した場合には、加算税や延滞税がかかる場合があります。(nta.go.jp)

相続税がかかるかどうかは、正味の遺産額が基礎控除額を超えるかで判断します。基礎控除額は、3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算されます。(nta.go.jp)

不動産登記の期限

不動産を相続した場合には、相続税とは別に相続登記の期限にも注意が必要です。令和6年4月1日から相続登記は義務化されており、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記を申請する必要があります。遺産分割で不動産を取得した場合も、別途、遺産分割から3年以内にその内容に応じた登記をする必要があります。(moj.go.jp)

予防策

期限管理で揉めないためには、相続開始後すぐに「3か月・10か月・3年」という大きな期限を共有することが重要です。相続放棄の可能性がある場合は弁護士、相続税の可能性がある場合は税理士、不動産登記が必要な場合は司法書士など、分野ごとに専門家へ早めに相談することで、手続き漏れや判断ミスを防ぎやすくなります。


まとめ:相続で揉める原因は「お金」だけではない

相続問題で揉める代表的な事柄は、次の6つです。

  1. 不動産を誰が相続するか
  2. 生前贈与や過去の援助をどう扱うか
  3. 介護や同居の貢献をどう評価するか
  4. 遺言書の内容や遺留分をどう考えるか
  5. 預貯金の使い込みや財産隠しをどう確認するか
  6. 借金・税金・登記などの期限をどう管理するか

相続トラブルの背景には、財産額だけでなく、家族間の不公平感、過去の感情、情報不足、証拠不足があります。家庭裁判所の遺産分割調停・審判という制度はありますが、いったん手続きに進むと時間も精神的負担も大きくなります。裁判所の統計上も、遺産分割事件には長期化するものが含まれています。(courts.go.jp)

最も重要なのは、相続が起きてから慌てて対応するのではなく、生前の段階で財産内容、登記名義、生前贈与、介護負担、遺言書、納税資金を整理しておくことです。相続は「法律問題」であると同時に「家族間の信頼関係の問題」でもあります。だからこそ、早めの情報共有と証拠の整理が、将来の揉め事を防ぐ第一歩になります。

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